charafre シーズン1 第1話 天使が舞い降りる場所

文章:春日康徳

 満開の桜が散りはじめていた。

 桜の花びらが風に舞い、あらたに芽吹こうとしている新緑の香りが鼻孔をつく。

 澄んだ青空と桜のコントラスト。ぴかぴかの校舎。おだやかな陽気。すべてが光り輝き、このかけがえのない瞬間を彩っていた。学園前の桜並木は、いま、この瞬間が最高に美しい。

EVEQ011_003_31

 充実した学園生活をすごすための素晴らしい舞台はすでにここにあるのだ。

 あとは自分たちがどう行動していくか――。

 そんな想いをあらたにした生徒会長の五十嵐飛鳥(いがらし・あすか)は、中庭の桜を見あげながらゆっくりと歩いているのだった。

NPC300_0001_02w

生徒会長 五十嵐飛鳥

 小柄な飛鳥は、ともすれば幼い印象を与えがちだ。ふたつくりにしたピンクの髪型もそんな印象に拍車をかけるのだろう。

 しかし、背が低いからといって、生徒会長としての威厳がないということはない。

 ピンと背筋を伸ばし、不撓不屈の鋼の意思を顔(かんばせ)に宿した飛鳥は、不敵ともいえる自信に満ちた笑みを浮かべて、生徒会室へと向かう。

 4月に新設されたばかりの翔愛学園には、上級生が存在しない。だから一足早く翔愛学園に入学した飛鳥は、1年生ながらも生徒会長を務めている。

 飛鳥が生徒会長になったのは、明確な目的があったからだった。推薦されてやむにやまれず引き受けたわけでも、ほかに人がいなかったわけでも、ましてや進学を見越したポイント稼ぎでもない。

 彼ら・彼女たちにさびしい想いをさせたくない。毎日が楽しくて充実した学園生活を送ってもらいたい。そのための基礎を自分たちは築かねばならない――飛鳥はそんな理想を胸に、生徒会長に立候補したのだった。

 幼いころに外交の仕事をしていた両親を事故で亡くしてしまった飛鳥は、遠戚関係にあった孤児院を経営する院長に引き取られた。

 養父の孤児院で幼少期を過ごしてきた飛鳥は、見捨てられ、期待もされず、さびしい思いをするたくさんの子どもたちを目にしてきた。

孤児院

 本来だったら、溢れる泉のごとく注がれる親の愛を受け、幸せな時を過ごすべき幼少期の子どもたち。しかし、不幸にも孤児院にやってくることになった彼ら・彼女たちに限っては、そんな当たり前の幸せを享受することは叶わないのだった。

 たとえ親がいなくとも、他人から期待と愛情を一身に受ければ、子どもは幸せな時期を過ごすことができる。親がいないことを引け目に感じる必要はないし、自分は孤児なんだと卑屈になることもないのだ。自分がそのことを証明してみせる。飛鳥は子どもたちを世話しながら、そんな義務感で小さな身体を縛りつけ、仲間たちとともに孤児院で過ごしてきた。

また、翔愛学園理事長・福之神の遠戚という理由だけで、特別視されたくないという想いもまた、飛鳥にはある。福之神と養子縁組をせず、五十嵐姓のままでいるのも、そうした理由からだ。

 もっといえば、孤児院を経営していた福之神理事長に、子どもたちの成長を見守る翔愛学園創設の建議をしたのも飛鳥だった。彼女は自分の打ちだした学園創設の存在意義を証明する必要があり、そんな飛鳥が会長職に就いたのは当然の流れだったのだ。

 翔愛学園でも、生徒1人1人を輝かせたい。それが迷いなく生徒会長となった飛鳥の偽らざる本心なのだ。

(さて、今日はどんな転入生がやってくるのだろう……)

 新設されたばかりの翔愛学園には、随時、転入生がやってくる。今日も生徒会のメンバーが転入生に対してオリエンテーションを行うことになっていた。

 在校生にどんな刺激を与え、どんな化学反応を起こしていくか。まだ創世期ともいえる翔愛学園への転校生の人となりは生徒会長である飛鳥にとっての最大の関心事といってもいい。

「おはよう!」

 生徒会室の扉を開けて、飛鳥がいった。

S01_010_002Pi

 室内を見まわせば、生徒会の面々がそろっている。

 眼鏡をかけた大人しい男子生徒は筒井誠司(つつい・せいじ)。いつも冷静沈着な生徒会副会長だ。融通が利かないところもあるが、生徒会役員としてはきわめて優秀で、独断専行型の飛鳥が決めた方針に理論武装や学園内の根回しをやってくれる。

筒井誠司

筒井誠司

 その隣で分厚い大型本に目を落としているのは、生徒会書記の高峰静(たかみね・せい)。ショートカットで口数も少ない女の子だ。超常的な現象に造詣が深く、学園内で度々起こる摩訶不思議な事件に、興味深い考察を加えてくれる。

高峰静

高峰静

 さらにその隣で頭の後ろで手を組み、ふんぞり返っているのが夏樹啓太郎(なつき・けいたろう)。明るい色に髪を染めて、いわゆるチャラいタイプの男の子だが、きわめて正義感は強く、弱いものイジメは見逃さない。

夏樹啓太郎

夏樹啓太郎

 彼らとはちょっと離れた机で電卓を弾いているのが、生徒会会計の辻蔵弥生(つじくら・やよい)。いつも笑顔を絶やさぬ明るくて真面目な女の子なのだが、せっかちでおっちょこちょいなところが玉に瑕だ。

辻蔵弥生

辻蔵弥生

 そして転入生オリエンテーションの日程を丁寧に黒板に書き込んでいるのが生徒会会計の茅野瑞希(かやの・みずき)。小動物のような男の子だ。努力家だが、要領が悪く、よく飛鳥に詰められている……。

茅野瑞樹

茅野瑞樹

「おはようございます!」

「おっはよう〜」

「よう!」

 あいさつを返してくる生徒会のメンバーを見まわしながら、飛鳥は急に自分の胸に去来した違和感に眉をひそめた。はたとその違和感の原因に思い当たった飛鳥は、「ん……!? どうして全員がそろっているのよ!?」と春の陽気にうららかな気分だったのが一転、思わず声を荒げた。

 飛鳥がなにを不満に思っているのか見当もつかないというように、生徒会メンバーがそれぞれ互いに顔を見合わせる。

「今日はあたらしい転入生がやってくる日でしょう!? オリエンテーションには誰がついているの!?」

NPC300_0001_08w

 本来なら転入生を案内するのは生徒会役員の仕事のはず。それなのに、ここに全員がそろっているとはどういうことなのか。腕を組んで仁王立ちする飛鳥に、役員たちは戸惑いはじめた。

「ああ、そのことか」

 唯一、役員のなかで飛鳥の怒気に動じず耳の穴を小指でほじくっていた夏樹が、彼女をなだめるようにいい放つ。

「転入生のオリエンテーションは、ミカちゃんに任せてあるんだ」

「ミカちゃんに……?」

 ミカちゃんとは、翔愛学園に出没する守護天使のことだった。

 一生のうちで、もっとも輝いている瞬間。

 もっとも感性がするどくなって、あらゆる物事をスポンジのように吸収することができる若き青春の瞬きでしか体験しえないのが〝彼女〟との出会い。翔愛学園の生徒なら、遅からずかならず体験する奇跡だった。

 学校という場所は、遥か昔からこれから先ずっと未来まで、いつも同じ年齢の少年少女たちが集う場所だ。

 いろんな世代の人間が、同じ年齢のひと時だけその場所に集められ、一生で最も多感で濃密な日々をこの場所で記憶していく——世代を超えて同じ歳の頃に同じ場所で感じたその想いたちは、校舎の隅に、階段の手すりに、廊下の床板に染み込み……宝石のような輝きを放ち、やがて意思を持ち始めるとしたら……?

 つまりそれが〝彼女〟——天使ミカちゃんだった

ミカちゃん

 オルレアンの乙女・ジャンヌダルクに啓示を与え、三大天使として位置づけられる大天使ミカエルの名を冠するその女の子は、飛鳥が目指す理想の学園——生徒1人1人が人生のなかでも最高のひとときを過ごす場所を築きあげるための重要な鍵でもあった。

 なぜならば、純粋な心を持ち、輝けるときを過ごすものでなければ、天使の姿は、ミカちゃんを目にすることはできないからだった。

 青春のひとときを過ごす若者たちの意識・想いの集合体である彼女の存在は、翔愛学園が輝いている象徴でもあるのだった……。

 だが——そんな守護天使の意向とはいえ、自分たちの職責を放り投げるとはどういうことなのか。

それにミカちゃんは天使とはいえちいさな女の子。無力な子どもだった。そんな幼い子を放置していることもまた許せない想いの飛鳥は、

「そもそもミカちゃんはひとりじゃ自分の言葉を相手に伝えられないでしょう?」

 と一気にまくしたてた。

 守護天使のミカちゃんがコミュニケーションを図れるのは、唯一巫女の役割を果たす高峰静を通してだけだった。

 いわれてはじめてそのことに気がついた、とでもいうように、役員たちの間に動揺が走る。

「あ、安心しろよ。俺たちだってミカちゃんに任せっぱなしになんかしないさ。役員の誰かが……」

 言いかけて、夏樹は室内に役員全員がそろっていることに目を見開く。

「あれ……!?」

「だ・か・ら! 誰が行くことになっているのよ!」

 次々と怒りの燃料を投下する夏樹は、「弥生が行くことになってなかったっけ……?」と苦し紛れの言を吐いた。

「え? 茅野くんが行ってくれるって……」

 キッと向けられた飛鳥の視線を回避するかのように、弥生が言った。

「ええっ……夏樹さんが俺に任せておけっていうからてっきり僕は……」

 飛鳥にどやされると震えあがった茅野は誰に救いを求めればいいのかもわからずに声を震わせた。

「結局、みんな他人任せで放置してたってことね……」

 飛鳥が大きなため息をつく。

「大丈夫よ」

 そんなとき、静がぽつりと言い放つ。

「ミカちゃんは天使像の前で転入生を待っているはずだわ」

「天使の存在有無はともかくとして……ここで騒いでいても、なんの解決にもならないと思うが?」

 眼鏡ごしに鋭い視線を飛鳥に送ってきたのは副会長の筒井だった。

「転入生が学園内にいることはたしかなんだろう? 探しに行けばいい」

 そんなことはわかっているというように、飛鳥が大きくため息をつく。

「よし、転入生を探すわよ!」

 起こってしまったことはしかたがない。すぐさま頭を切り換えた飛鳥が、役員たちに指示を飛ばす。

「誠司と静は西棟を、啓太郎と弥生は東棟を探してきて! 茅野は運動場及び体育館を、私は旧校舎へ向かうわ!」

「それは上策とはいえないな」

 眼鏡を押しあげながら筒井が言う。

「情報が錯綜すれば、さらに混乱をきたすだろう。ここはまとめ役が必要だと考えるが?」

 一理ある。筒井のアドバイスに頷いた飛鳥は、

「……私はここで待機してるわ。みんなからの情報を集約する。さ! みんな、早く行ってきて!」

 と号令した。

 生徒会役員は転入生を探して校内を駆け巡った。

 だが、どこを探してもその姿を見つけることはできなかった。

 生徒会室の黒板に貼りつけた校内地図は、すでに見まわった印で埋め尽くされている。

「なんてことなの……」

生徒会室

 消えた転入生がどこに行ってしまったのか、途方に暮れた飛鳥がため息混じりにいった。

情報によれば、転入生の姿は、体育担当の柏木教諭によって確認されている。つまり少なくとも転入生は一度翔愛学園の門をくぐっているのである。

 そんな飛鳥の携帯電話が鳴った。着信に飛びついた飛鳥は、「会長! いますぐ天使像前に急行してくれ!」という筒井の声を聞いた。

「どういうこと!?」

「いま、3階の窓から、ミカちゃんを連れた転入生らしき女の子が天使像前にいるのが確認できた! いまもっとも現場に近いのは、会長だ!」

「わかった!」

 電話を切るのももどかしい思いで、飛鳥は生徒会室を飛び出した。下駄箱玄関口を通って、天使像前に駆けつける。

 しかし、そこにはすでに2人の姿はなかった。

 荒れた息を整えるように、飛鳥は深呼吸する。このまま探すべきか、それとも生徒会室に戻るべきか? 逡巡している間にも、転入生とミカちゃんは校内をさまよいつづける……。

 飛鳥はあらためて自分の無力さに嘆息した。転入生のオリエンテーションを勝手にミカちゃんへ任せてしまった生徒会役員たちの危機意識の希薄さ……。彼らを恨むことはしまい。ましてミカちゃんのせいでもない。自分がしっかりオリエンテーションの意義を生徒会役員に伝え切れていなかったのだ。後悔が頭をもたげ、胃を重たくするのを感じながら、飛鳥は救いを求めるかのように顔を空に向けた。

 思えば、孤児院でもおなじことがあった気がする。飛鳥は遠い記憶をまさぐった。孤児たちが幸せに暮らすことができる理想郷。けれどそんな自分の理想とはかけ離れ、制御不能な子どもたちにいらだつこともあった自分。

 そんなときも飛鳥はけっして、聞き分けのない子どもたちを恨むことはせず、自らを戒めてきた。

なぜなら子どもたちはときに困ったこともしでかすが、それでも実に愛すべき存在だったからだった。

 孤児院の子どもたちと生徒会役員の面々をダブらせた飛鳥は、ふっと微笑を洩らした。

(……!?)

 そのときだった。舞い散る桜に混じって、淡く輝く天使の羽がひらりと降ってくるのが目に入った。

天使の羽

目を見はった飛鳥は、天使の羽を追いかけて、中庭へ向かう。

 地面に落ちた天使の羽を拾いあげると——そこには、まるで洋人形のようなちいさな女の子と、彼女を連れ立つ転入生の姿があった!

 飛鳥は微笑ましく思った。

 学校が変わっても、友だちはできるか、勉強は大丈夫か……? 転入してきたばかりで、不安も多いことだろう。それなのに、自分のことはそっちのけで、新入生は〝彼女〟を連れたって、手を焼いている。

 そんな転入生のやさしさに感じ入ったのか、あるいはやっと見つけ出した安心感からか、飛鳥はやさしい声音で「あ〜らミカちゃん♪」と声をかけていた。

中庭

 声をかけられた転入生がはっと振り返る。彼女の目が、飛鳥の名札——『生徒会長』の文字を追ってから、その幼い外見を疑い疑い、

「せ、生徒会長……だったっけ?」

 と不安げな声を洩らす。

 微笑みながら頷いた飛鳥は、

「ミカちゃん、お姉ちゃんと一緒でご機嫌ね〜〜〜」

 と転入生を安心させるためにあえてくだけた口調で言った。

 転入生は、驚いた顔をしている。それはそうだろう。大人には見えなかった〝彼女〟——転入生が連れたっているちいさな女の子に声をかけた飛鳥に、転入生は気を許していいものか逡巡している容子だった。

「せ、生徒会長!!」

 一転、息せき切って迫る転入生が、声をあげた。

「この子のこと見えるんですか!?」

「あら、もちろんよ」

 飛鳥はにこっと笑って見せる。

「あなたは、誰も気に留めず、放置されていたこの子を心配してくれた——この学園の生徒として、合格よ」

 それは飛鳥の心からの感謝の言葉だった。ミカちゃんに任せきりで、このちいさな女の子を放置してしまった生徒会のミスを、転入生は自分のことも顧みず助けてくれたのだ。

 対して、不安に押し潰されそうだった転入生が、訳も分からず目を丸くしている。そんな彼女に、飛鳥はさきほど拾いあげた天使の羽を差しだした。

「はい、これ」

EVMQ001_001_04bw

「え……!?」

 恐る恐る、転入生が羽を受け取る。

「天使の羽よ♪」

「天使の……羽!?」

 おうむ返しに飛鳥の言を、新入生が繰り返した。

「この子が、あなたにプレゼントですって」

 飛鳥はミカちゃん——ちいさな女の子に目で合図しながら言った。

「え!?」

 突然、天使の羽だと言われて差しだされ、どう受け止めたらいいものか迷いながらも、どうやら自分が誉められているらしいと感じた転入生は、頬を赤らめながら、

「……って、ちょっと待って下さい!」

 と飛鳥に疑問の声をあげる。

「この女の子は、いったい何者なんですか!?」

「ふふっ……」

 飛鳥は微笑を洩らしながら答えた。

「学校っていう場所はね……遥か昔からこれから先ずっと未来まで、いつも同じ年齢の少年少女たちが集う場所でしょう?」

「はい……」

「いろんな世代の人間が、同じ年齢のひと時だけその場所に集められて、一生で最も多感で濃密な日々をこの場所で記憶していく——そんなすてきな場所よね?」

 一言も洩らさず聞き取ろうと、転入生は真剣な表情で飛鳥の話を聞いている。

「世代を超えて同じ歳の頃に同じ場所で感じたその想いたちは、校舎の隅に、階段の手すりに、廊下の床板に染み込み……宝石のような輝きを放ち、やがて意思を持ち始めるとしたら?」

 自分も最初は信じられなかったことだ。新入生が浮かべる戸惑いの表情を前にしながら、飛鳥はつづけた。

「この学園はできたばかり、たくさんの精霊が、今まさに産声をあげている」

「そ、それがこの女の子だって言うんですか!?」

 転入生が言った。

 なかなかいい勘をしている。さすが、入学初日に〝彼女〟と巡り会うだけの子だと感心しながら、

「この子は学園の心そのものよ」

 と飛鳥は言った。

「私たち生徒会は、この子のことを〝彼女〟——天使ミカちゃんって呼んでるの」

「天使ミカちゃん……って、」

「大天使ミカエルのミカちゃん♪」

「そ、そんな事って……」

「昔から、ざしきわらしやら、もののけやら、妖怪? 時には幽霊なんて語られて来たその子は、学園という空間を共有した人たちの写し鏡なのよ」

 はじめは信じられなくとも、この学園で起きる数々の奇跡を目の当たりにすれば——そして、10代の鋭敏な感性ならば、きっとこのまか不思議なことも受け入れられるはず——飛鳥はやさしくつづける。

「今この時を学園で過ごすあなたたち自身生徒達の心を感じ取って成長する。善い心、悪い心、憎しみ、悲しみ、慈しみ、寂しさ、やさしさ——全部」

 飛鳥の話を噛みしめながら、転入生は「はい……」と小さな声で答えた。

「よい学園になるか悪い学園になるかは、あなた次第。もちろん生徒会は、良い学園を作るための努力は惜しまないわ」

「わたしの心が、この女の子を成長させる糧になるってことですか?」

 転入生の答えに満足の笑みを浮かべた飛鳥は、

「そうよ。さっき降ってきた白い羽は、天使が幸せを感じた証拠」

 と応じる。

「そして——ミカちゃんや天使たちが成長していくってことなの。あなたも学園生活を、楽しく有意義にするために、天使の羽を集めればいいのよ。そうやってあなたが集めた天使の羽によって、天使は成長する。もしかしたら……いつかあなたのところにも、あなただけの天使がやってくるかもね」

「はい……!」

 最後に力強く転入生が応じると、ミカちゃんはいつの間にか姿を消している。

「あれ……!?」

「さ! オリエンテーションの遅れを取り戻さなくっちゃね!」

 飛鳥は転入生の先をずんずん進みはじめた。

 いなくなったミカちゃんに気をとられ、すぐそばにいたはずの生徒会長——飛鳥も突然消えてしまったと感じたのか、転入生は一瞬、驚いた表情を浮かべる。

 きょろきょろと周囲を見まわす転入生の背をやさしく押した飛鳥は、

「さ、いくよ転入生さん!」

 とやさしく答えた。

第1話・おわり