○月×日 ―曇りのち晴れ―[後編]

◆月○日 曇りのち晴れ

結局、今日も彼と一緒に登校する事になった。

まだ歩くと足が痛むから、ゆっくりとしか歩けない。

「慌てなくていいから、ゆっくり行こうよ!」

登校に時間がかかる事を気にしてたけれど、
彼のそんな言葉が私の不安な気持ちを吹き飛ばしてくれた。

とても気遣ってくれて少し段差がある場所も、
さり気なく微笑みながら手を差し出して助けてくれた。
ホントに優しいな・・・(*^-^*)

部活の話をしたけれど、気がついたら私の話ばかりしてたような?(^^;
にこにこしながら聞いてくれたから、つい嬉しくなっちゃって話しすぎたかな?

だけど、その部活もしばらくお休みするって挨拶してきたし、
明日は彼の話も聞いてみたいな!
朝、寮の前で待たせてしまうのも申し訳ないし、
明日は少しでも早く出られるように頑張ろうっとp(^^)q

————–

●月□日 雷雨のち晴れ!

今日もまた、彼女を寮の入り口まで迎えに行った。
待っている間に、同じクラスの女子に声をかけられた。

「おはよう~! 朝から女子寮に来るなんてどうしたの?
彼女でも誘いに来たのかな~?」

ニヤニヤとしながら近づいてきて、腕をつつかれた。

「いや、そういうのじゃないから!
怪我してる友だちを送って行ってるだけだって!!」

そう言い返すと、

「そうなんだ? じゃぁ、お先に~!!」

と、ひらひらと手を振りながら学園の方へと立ち去って行った。

悪友のアイツが女子寮暮らしなのは知ってたし、
今日辺り見つかるんじゃ?と嫌な予感はしていたがやっぱりだった!
今朝はいつもよりクラスの皆に会うのに少し勇気がいりそうだと、この時から思っていた。
予想通りに、皆に冷やかされたけどな!!
(・・・ま、彼女となら、噂になっても構わないけどさっ!!!)

アイツが立ち去った後に、つい独り言が出てしまった。

「でも、彼氏とかじゃ・・・ないからさ。」

ぼそっとそう呟いた後で、彼女がやって来た。

「おはよう。」

いつものように挨拶を交わしてから、今日もまた、ゆっくりと桜並木を歩いていった。
だけど、今日の彼女は少し元気がなかったみたい?
少しうつむいて黙ったまま、一歩一歩、歩を進めていた。

足がまだ痛むのかと思って尋ねてみたけれど、

「大丈夫。足の痛みは昨日よりはずっと少ないよ。」

そう返事をした後は、さらにうつむいて黙り込んだままだった。

沈黙が気まずいのも手伝って、昨日から気になっていた、
彼女の部活の男子の事を思い切って聞いてみる事にした。
作り笑顔にもほどがあるだろ!ってぐらいに、
ムリヤリに笑って軽く聞いてみたつもりだったけど、うまく出来てただろうか?

「えぇぇ!? 違うよ! 朝練を一緒にやってるだけで彼氏とかそんなのじゃないよ! ただの友達!!
そもそも私、彼氏とかいないし!! ・・・って、これは関係なかった・・・ね。」

頭をぶんぶん振りながら、彼女は真っ赤な顔でそう言って、またうつむいてしまった。

・・・よし。彼氏はいないんだなっ!!
僕にもチャンスはあるのかっ!?

————–

●月□日 晴れのち雨

0000001161-1401707700

昨日より、少しだけ早めに部屋を出て玄関前のロビーへ向かったけれど、
途中で、扉越しに彼が女の子と話してるのを見てしまった。

0000000515-ryutere_yuzuniko003

彼は真っ赤な顔をしながら、その子と何か話している。
くるくるとした巻き毛でショッピングモールで売ってるフリルたっぷりの服が似合いそう。
まるでマカロンみたいな可愛い女の子。

彼は、やっぱりああいうタイプの女の子が好きなのかな?
私みたいに、部活ばかりやってて男の子みたいじゃ、きっと好みじゃないよね・・・。
そう思った瞬間に、胸の奥がきゅっと痛んだ。

女の子が立ち去るのを見届けてから、扉を開けて彼に挨拶をした。
少し赤い顔のままの彼が、

「おはよう!」

って返してくれた。

だけど、いつもみたいに何か話そうとしても、
さっきの女の子の事が気になってしまってうまく話せなかった。
ただただ、ゆっくりと2人で桜並木を歩くだけ。

0000001161-1404565524

彼の話もたくさん聞いてみたかったのに、
もう何も言葉が出てこなくなってしまって、泣いてしまいそうだった。

きっと今の私、すごく変な顔してるから見せたくないって思って、少しうつむいた瞬間に、
彼の事、好きなんだって気付いてしまった。
だから、可愛い女の子と親しそうに話してた彼を見て、あんなに胸の奥が痛くなったんだ。

そうして、黙りこむ事しか出来ないでいた私に、

「足、まだ痛む? 大丈夫??」

と、彼が気遣って声をかけてくれた。
足の痛みは少ないと伝えたけれど、
治りかけた足よりも胸の奥の方がずっとずっと痛かった。

きっと彼は私だけに優しいんじゃないんだよね。
あの女の子にだって、たぶん優しいんだ。
・・・私だけが、特別なわけじゃない。

そんな事を思っていたら、彼が突然ニコっと笑いながら、

「昨日の剣道部のヤツと仲良さそうだったね! もしかして、彼氏なのかな?」

と、言った。

(・・・えぇぇぇ! 彼氏!? なんでそうなっちゃうの?
だって、私が好きなのは・・・!! ヾ(゚□゚;)ノ )

と、喉元まで出かけたけれどなんとかそれは飲み込んで、必死でただの友だちだと否定した。

だけど、彼氏いないとか、つい余計な事まで口走ってしまった。
彼氏がいるって勘違いされてた誤解は解けたけど、今、思い返してもやっぱり恥ずかしい・・・。

あぁぁ、穴があったら入りたい!
いや、穴を掘ってでも入りたいよ!!(>△<)

————–

■月☆日 晴れときどきうす曇

「いつも私の事ばかり話してばかりだったから、今日は私が聞き役ね!」

今朝は、彼女にそんな事を言われたので、登校時間は僕の話をする事になった。

昨日、女子寮の前で悪友に会った事とその後のクラスでの一件を話してみた。
彼女はくすくすと笑いながら、楽しそうに聞いてくれた。
でも、その話の最後にちょっとだけ寂しそうな顔してたの、なんでだろう?

彼女の足もだいぶ良くなって来たようで、少しだけ学校に着く時間も早くなった。
今日はまだ一緒にいたくて、思い切って誘ってみた。
彼女がこくりと頷いたので、始業までの時間を校舎裏のベンチに座って過ごした。

いつまでもこんな時間が続けばいいのにな・・・。
だけど、もうすぐ、僕の役目は終わってしまう。
彼女と一緒に登校する理由がなくなってしまったら、もう一緒には通えなくなる。

どうしたら、このまま一緒にいられるだろう?

その答えは、わかってるけれど・・・ね。

————–

■月☆日 雨のち晴れ、ときどきうす曇

よく考えたら、昨日の女の子は彼の彼女だったのかも知れない。
私も、ちゃんと聞けば良かったんだ。

脳内で掘り続けていた穴には、さらに落とし穴があったみたい。
そんな事を考えてたら、昨日はあまりよく眠れなかった。

今日は、登校の間に、彼の話を聞けるようにお願いしてみた。
元々、彼の話を聞いてみたかった事もあるけれど、
今の私は、また昨日みたいに何か余計な事を言ってしまいそうだったから!(^^;;

すると、彼はこんな話をしてくれた。

「昨日さ、君と会う前に女子寮の前でクラスの悪友に会ってね。
『彼女を誘いに来たの~?』って冷やかされちゃったよ!」

あの可愛い女の子は、ただのクラスメイトだったみたい。
でも、あんな可愛い子を悪友って、一体・・・!?(^^;

「その後、教室に着いたら、もうクラスの全員が僕が君と登校してるって知っててびっくりしたよ。
またそこで皆に冷やかされちゃってね。・・・アイツ、本当にお喋りなんだから。」

恥ずかしそうに頭を抱えながらそんな話をしてくれた後で、さらにこう言われた。

「あ! 誤解されると君に迷惑がかかるだろうから、ちゃんと友だちだって言ったから安心して!!」

彼は真っ赤な顔をして必死になって訴えていたけど、むしろ誤解されたままで良かったんだけどな・・・。
う~ん、ちょっと残念!!
・・・もちろんそんな事、言えなかったけどね!(^^;

とりあえず、昨夜悩んでた事は、私の思い違いだったみたい。
彼も同じような勘違いをしてたし、これでおあいこかな?

学園には少し早く到着する事が出来た。
彼のおかげで登校中に転んだりせずにいるから、足の治りも早いのかもしれない。

いつもなら、下駄箱前で別れて、それぞれのクラスへと向かうけれど、今日はいつもと違ってた。

「あの・・・今日は時間あるし、良かったらもう少し話してから教室へ行かない?」

彼にそう言われてびっくりしちゃった!
驚きながらも頷いたら、彼が校舎裏に連れて行ってくれた。

0000001161-1404565636

ベンチに座る時には、さり気なくハンカチを敷いてくれた。
ちゃんと女の子扱いしてくれてるんだって思ったら、
そんな風に扱って貰う事に慣れていないから、なんだかこそばゆい。
だけど、すごく嬉しかった!(*>△<*)

私の事、女の子として見てくれてるのかな?
・・・それなら、私にもチャンスはあるのかな? (* ゚д゚*)

————–

☆月★日 うす曇のち晴れ

今日も早く学園に着いたので、始業までの時間を彼女と一緒に過ごした。
足はだいぶ良くなって、歩くのにはほとんど問題はなくなったようだ。

彼女から、明日から朝練に参加するという話を聞いた。
朝練は、しばらくの間は軽い運動程度と見学での参加らしい。
走るのはまだ少しきついらしく、早朝のジョギングを再開するには時間がかかりそうだった。
しばらくの間、彼女とは会えなくなるだろう。

「そっか・・・。でも、足が治って本当に良かった!
部活、頑張ってね。応援してるよ!」

なんとか笑顔を作ってそう言ったものの・・・。
この日が来るのはわかってたのに、やっぱりショックだった。
次の言葉が出てこなくて、そのまま考えこんでしまった。

隣に座っていた彼女も、黙って少し遠くを見ていた。
そんな時間がどれぐらい過ぎていたのか、気付いたら予鈴が鳴っていた。

「わ! ごめん!! 僕、ぼんやりしてた!! またね!!」

そう言って、慌てて教室へ向かいながら、ふと思った。

(その『また』って言うのは、一体いつなんだよ?)

ずっとこの数日、いろいろあったけど朝が楽しみだった。
一緒に登校を続けている間に、彼女の事がどんどん好きになって、
すれ違いざまに見ていただけの頃の淡い想いとは違う感情を抱いてしまった。
もう、今の友だちのままの関係でいるだけでは、きっと満足なんて出来ない。

彼女に思いを伝えたい。
明日から朝練に行くって言ってたから、いつもよりも少し早く寮を出るはずだから待ってみよう。
ちゃんと気持ちを伝えて、もしつき合えるようになったら、今度からは一緒に朝の桜並木を走れるようになりたい。
その前に、しばらくサボっていた朝のジョギングも再開して、身体鍛えないと!!
どうせ明日は早起きになるし、また走るきっかけにはちょうどいい。

そして・・・
明日、もし会えたら、ちゃんと言おう。

0000010598-1405167865

「好きです! 僕と付き合ってください!」

って!!

————–

☆月★日 うす曇のち晴れ

足はもうほとんど治ってしまっていたけれど、今日も彼と一緒に登校した。
だけど、いつまでも彼に甘えてばかりいられないから、今日こそはちゃんと言わなきゃ!って思ってた。

「足、ほとんど治ったから、そろそろ部活の朝練に参加しようと思うんだ・・・」

思い切って、明日から朝練に出るって話をした。

彼はいつもみたいに微笑んで、足が治った事をとても喜んでくれた。
部活の事も応援してるって言ってくれたけれど、
その後は、予鈴がなるまでの間、ずっと黙ったままだった。

慌てて教室に向かう前に、「またね!」って彼が言ってくれたけど、
それっていつの事かな?
もう、会う約束なんてない。
これからは、毎朝、寮の前で待っててくれるわけじゃないから。

「またね」って言える約束が欲しい。
この気持ちも、ちゃんと彼に伝えたい。

そんな事を考えていた間に、ふと気がついた。
あ・・・。 私、今までのお礼をまた言いそびれてる!!Σ(-△-;)

もう~っ! なんでいつもこんなにうっかりしてるのかな、私って!!
ドジっ子のランクは、もうこれ以上は高くならなくていいよ!(>△<)

決めた! まずは、今までのお礼をしなきゃ!!
明日は早起きしないと!
朝練行く前に、お弁当を作って広場のベンチに座って彼を待ってみよう。
もしも彼がジョギングで通ったら、ちゃんとお礼を言って渡してみよう!
受け取ってもらえるといいな!(*^^*)

そして・・・
明日、もし会えたら、ちゃんと言おう。

0000001161-1405166187

「好きです! 私と付き合ってください!」

って!!

― END ―

文章:第三回シナリオコンテストより

協力:翔愛学園カレッジコースのみなさん